IoTセンサー導入の判断基準|後付けで取れるデータ・取れないデータ
既存設備へのセンサー後付けは、何が取れて何が取れないかを理解しないと投資が無駄になります。電流・振動・温度・画像それぞれで分かること、サンプリング周期の決め方、通信方式の選び方を実務ベースで解説します。
この記事の要点
- 後付けで確実に取れるのは「稼働の有無」。加工条件など内部状態は基本的に取れない
- センサーを増やす前に、既存のPLC・制御盤から取得できるデータを確認する
- サンプリング周期は「捉えたい現象の周期の10倍以上」が目安。粗いと現象が消える
- データを貯めるだけでは価値が出ない。何を判断するために取るかを先に決める
IoTセンサーの導入相談では、「まずデータを取ってみよう」という進め方が少なくありません。しかし、取得したデータで何を判断するのかが決まっていないと、貯めたデータは使われずに終わります。
本記事では、後付けで何が取れて何が取れないかを整理し、センサー選定とサンプリング設計の判断基準を解説します。
まず既存の取得源を確認する
センサーを追加する前に、既に取得できるデータがないかを確認します。多くの工場で、次の情報が未活用のまま存在しています。
| 取得源 | 得られる情報 | 追加投資 |
|---|---|---|
| PLC・制御盤 | 稼働信号、サイクルタイム、アラーム履歴 | ほぼ不要(接続工事のみ) |
| 設備の通信機能 | 加工条件、設定値(設備依存) | 不要 |
| 生産管理システム | 生産実績、停止理由 | 不要 |
| 検査記録 | 品質データ | 不要 |
PLCから取得できる情報は、後付けセンサーより質が高いことが多くあります。設備が稼働中かどうか、1サイクルに何秒かかったか、どのアラームが出たかは、外から観測するより正確です。
後付けセンサーで取れるもの・取れないもの
| 取れる | 取れない |
|---|---|
| 稼働の有無(電流、信号灯) | 加工条件の設定値 |
| 負荷の傾向(電流値の変化) | 制御ロジックの内部状態 |
| 振動の変化(軸受、回転体) | 材料の内部品質 |
| 表面温度(サーモ、接触式) | 内部温度の正確な値 |
| 外観(カメラ) | 見えない部位の状態 |
この区別が導入判断の起点になります。「予知保全のために温度と振動を取る」という計画は妥当ですが、「加工条件の最適化のために後付けセンサーを付ける」という計画は、そもそも必要なデータが外から取れない可能性が高くなります。
センサー別の使いどころ
電流センサー
最も汎用性が高く、最初に選ばれることが多いセンサーです。
| 分かること | 精度 |
|---|---|
| 稼働/停止 | 高い |
| 負荷の増減傾向 | 中〜高 |
| 摩耗の進行(負荷の緩やかな上昇) | 中 |
| 突発的な異常(急激な変動) | 中 |
配線に挟むだけで設置でき、設備を改造しません。まず電流で全体を把握し、説明できない現象が出た箇所に他のセンサーを追加する進め方が効率的です。
振動センサー
回転体・軸受の異常検知に有効です。設置位置と固定方法で結果が大きく変わります。
- 測定対象に近い剛性の高い箇所に固定する
- 磁石固定は簡便だが、高周波域では接触状態の影響を受ける
- 同一設備でも設置位置が違うと比較できない
複数台を比較する場合、設置位置を統一しないとデータが比較できません。台帳に設置位置を記録しておく運用が必要です。
温度センサー
過熱の検知には有効ですが、変化が緩やかなため、急な異常の検知には向きません。周囲温度の影響を受けるため、季節変動を考慮した基準が必要です。
カメラ
外観に現れる異常(漏れ、詰まり、位置ずれ)の検知に使えます。照明条件が安定していることが前提です。
サンプリング周期の決め方
| 目的 | 必要な周期 | データ量の目安 |
|---|---|---|
| 稼働状況の把握 | 1秒に1回 | 小さい |
| 負荷傾向の分析 | 100ミリ秒に1回 | 中 |
| 回転体の振動解析 | 数kHz以上 | 非常に大きい |
| 温度の監視 | 1分に1回 | 非常に小さい |
原則は、捉えたい現象の周期に対して10倍以上の頻度です。周期が粗いと、現象そのものがデータに現れません。逆に必要以上に細かくすると、通信と保管のコストが急増します。
振動解析のような高頻度データは、生データを全て送るのではなく、現場側で特徴量(実効値、周波数成分のピークなど)に変換してから送る構成が一般的です。
通信と保管の構成
| 構成 | 向いている用途 | 注意点 |
|---|---|---|
| 有線(Ethernet) | 常時・高頻度の取得 | 配線工事が必要 |
| 無線(Wi-Fi) | 既存インフラの活用 | 金属環境で不安定になりやすい |
| 無線(LPWA) | 低頻度・広範囲 | 高頻度データは送れない |
| 現場サーバー+定期送信 | 高頻度データの集約 | 現場側の機器管理が必要 |
工場は金属構造物が多く、無線が安定しないことがあります。導入前に設置予定場所で電波状況を測ることを推奨します。
データを貯める前に決めること
| 決めること | 具体例 |
|---|---|
| 何を判断するか | 「軸受の交換時期を1か月前に把握する」 |
| 判断に必要な情報 | 振動の特定周波数成分の推移 |
| 判断の基準 | 基準値の1.5倍を超えたら点検 |
| 誰が見るか | 保全担当が週次で確認 |
| 対応の手順 | 点検→部品手配→計画停止で交換 |
この5項目が埋まらないうちにセンサーを設置すると、データは溜まるが誰も見ないという状態になります。逆に埋まっていれば、必要なセンサーとサンプリング周期は自ずと決まります。
段階的な進め方
| 時期 | 取り組み | 到達点 |
|---|---|---|
| 1か月目 | 既存データの棚卸し、判断目的の明確化 | 追加取得の要否が分かる |
| 2〜3か月目 | 1設備に電流センサーを設置、稼働把握 | 稼働率と停止傾向の可視化 |
| 4〜6か月目 | 説明できない現象に対して追加センサー | 現象と数値の対応づけ |
| 7〜12か月目 | 対象設備の拡大、基準値の設定 | 異常検知の運用開始 |
まとめ
IoTセンサーの導入は、既存の取得源を確認し、判断目的を決めてから選定すると無駄がありません。後付けで確実に取れるのは稼働の有無と負荷の傾向であり、設備内部の設定値は基本的に取得できません。
サンプリング周期は目的から決め、高頻度データは現場側で特徴量に変換してから送る。この設計であれば、通信と保管のコストを抑えながら必要な情報を確保できます。
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参考
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DXの推進」https://www.ipa.go.jp/digital/dx/index.html
- 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)https://www.nedo.go.jp/
よくある質問
- Q. 古い設備でもセンサーを後付けできますか?
- できます。電流センサーは配線に挟むだけで設置でき、振動センサーは筐体に磁石で固定できるものがあります。信号灯の点灯状態を読み取る方式も広く使われています。ただし取得できるのは主に外形的な情報で、設備内部の加工条件や制御値は取得できません。
- Q. どのセンサーから始めるべきですか?
- 電流センサーが最も汎用性が高く、稼働の有無・負荷の傾向・異常の兆候をまとめて捉えられます。まず電流で稼働状況を把握し、それでは説明できない現象があった時点で、振動や温度を追加する順序が無駄になりません。
- Q. サンプリング周期はどう決めればよいですか?
- 捉えたい現象の周期に対して10倍以上の頻度が目安です。回転体の異常を振動で捉えるなら数kHz以上が必要ですが、設備の稼働状況を把握するだけなら1秒に1回でも足ります。周期を上げるほどデータ量と通信・保管コストが増えるため、目的から決めてください。
- Q. データはクラウドに送るべきですか?
- 用途によります。分析や複数拠点での比較にはクラウドが適しますが、高頻度データを常時送ると通信量が問題になります。現場側で集約・間引きしてから送る構成が一般的です。制御に使う即時性の高い判定は、現場側で処理する設計にします。
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