製造業

製造原価を工程別に可視化する|どのデータから着手するか

公開 4分で読めますPactom 編集部
作業着姿で伝票に記入する担当者

製品別の原価は出ていても、どの工程で利益が失われているかは見えていない工場が多くあります。工程別原価を掴むために必要なデータ、配賦の考え方、標準原価と実際原価の差異分析の実務を解説します。

この記事の要点

  • 製品別原価が出ていても、工程別に分解できなければ改善対象は特定できない
  • 精緻な配賦より、まず時間データ(工程別の実働時間)を揃えるほうが効果が大きい
  • 差異分析は「数量差異」と「価格差異」に分けると、責任範囲と対策が明確になる
  • 全製品を対象にせず、金額上位20%の製品から着手すると短期間で成果が出る

「製品別の原価は出ている。しかし、どの工程で利益が失われているかは分からない」という状態は、多くの工場で見られます。原価が製品単位でしか把握されていないと、改善の対象を特定できません

本記事では、工程別に原価を分解するために必要なデータと、着手の順序を解説します。

工程別に分解できないと何が困るか

分かること分からないこと
A製品の原価が予定より10%高いどの工程で超過したか
材料費が上がった歩留まりの悪化か単価上昇か
労務費が増えたどの工程の作業時間が伸びたか
全体の利益率が落ちた特定製品の問題か全体の問題か

右列が分からないままだと、対策は「全体的に頑張る」という形になります。工程別に分解できれば、特定の工程・特定の要因に絞った対策が打てます。

必要なデータは3つ

データ用途不足しやすさ
工程別の実働時間労務費・設備費の配分最も不足しやすい
投入材料と歩留まり材料費中程度
設備の稼働時間設備費・電力取得しやすい

実働時間が最大の課題です。多くの工場で、勤怠は取れていても「誰がどの工程に何時間かけたか」までは記録されていません。

実働時間の取り方(精度順)

方法精度導入負荷
MES等での作業開始・終了の記録高い高い
作業日報での工程別記入
設備稼働時間からの推定低い
標準時間 × 生産数での按分低〜中非常に低い

最初から1行目を目指す必要はありません。まず4行目の按分で概算を出し、ずれが大きい工程だけ精度を上げる進め方が現実的です。概算でも、工程間の相対比較には十分使えます。

配賦は「対策が打てるか」で決める

管理目的の原価計算では、精緻さより改善につながるかを優先します。

費目扱い理由
直接材料費工程別に直課歩留まり改善に直結
直接労務費実働時間で配分作業改善に直結
設備の減価償却稼働時間で配分稼働率改善に直結
電力・用役稼働時間または実測大口設備は実測が有効
間接部門費簡易な基準で配分細かくしても対策に結びつかない

最終行が要点です。間接費の配賦基準を精緻化しても、現場が打てる対策は変わりません。労力は直課できる費目の精度向上に振り向けるほうが、改善効果は大きくなります。

差異分析は2つに分ける

標準原価との差を見るとき、総額の差だけでは原因が分かりません。

総差異 = 数量差異(使用量・時間の差)+ 価格差異(単価の差)

差異主な原因責任範囲
材料の数量差異歩留まり、不良、ロス製造
材料の価格差異購買条件、市況購買
労務の時間差異作業効率、段取り、手待ち製造
労務の賃率差異要員構成、残業人事・製造

この分解をすると、「材料費が増えた」という現象が、歩留まり悪化なのか市況なのかを切り分けられます。前者は現場の改善対象、後者は購買・価格転嫁の議論になり、打ち手がまったく異なります。

着手範囲を絞る

全製品・全工程を対象にすると、データ整備だけで年単位の時間がかかります。

絞り方基準
製品生産金額の上位20%程度
工程加工時間の長い工程、不良の多い工程
期間直近3〜6か月

多くの工場では生産金額の上位20%が全体金額の7〜8割を占めます。ここに絞れば、データ整備の負荷を抑えつつ、全体への影響が大きい改善対象を特定できます。

進め方の順序

時期取り組み到達点
1か月目対象製品の絞り込み、既存データの棚卸し何が取れていないかが分かる
2〜3か月目標準時間による按分で概算の工程別原価工程間の相対比較ができる
4〜5か月目ずれの大きい工程で実働時間の実測概算の精度向上
6か月目差異分析(数量・価格)の運用開始原因別の対策が打てる
7か月目以降対象製品の拡大、月次運用の定着継続的な改善サイクル

第2段階で概算でも数字を出すことが重要です。完全なデータを待つと着手が遅れ、その間の改善機会を失います。

よくある誤解

誤解実際
原価計算システムを入れれば分かるデータが入らなければ何も分からない
精緻な配賦が改善につながる直課できる費目の精度のほうが重要
全製品を同じ精度で見るべき金額上位に絞るほうが成果が早い
原価が下がれば利益が増える生産量・価格の影響も併せて見る必要がある

まとめ

工程別原価の可視化は、実働時間データの整備が最大の関門です。最初から高精度を目指さず、標準時間による按分で概算を出し、ずれの大きい工程から精度を上げる順序であれば、半年で運用に乗せられます。

差異分析は数量と価格に分けること、対象は金額上位20%に絞ること。この2点を守れば、限られた工数でも改善対象を特定できます。

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参考

よくある質問

Q. 工程別原価を出すには何のデータが必要ですか?
最低限、工程別の実働時間、投入材料、設備稼働時間の3つです。このうち実働時間が最も不足しやすく、かつ影響が大きいデータです。MESや実績収集の仕組みがない場合でも、作業日報や勤怠データから工程別に按分する形で概算は出せます。まず概算で傾向を掴み、精度は後から上げてください。
Q. 配賦の方法はどう決めればよいですか?
目的によります。財務会計上の原価計算は所定の方法に従いますが、改善のための管理会計では「対策が打てる形」を優先します。間接費を細かく配賦するより、直課できる費目(材料・直接労務)を工程別に正確に把握するほうが、改善への示唆は大きくなります。
Q. 標準原価と実際原価の差はどう分析しますか?
数量差異(使用量・時間の差)と価格差異(単価の差)に分けます。数量差異は現場の作業や歩留まりに、価格差異は購買や市況に起因することが多く、責任範囲と対策が異なります。分けずに総額の差だけを見ると、原因の議論が噛み合いません。
Q. どの製品から着手すべきですか?
生産金額の上位20%程度に絞ってください。多くの工場では、この20%が全体の金額の大半を占めます。全製品を対象にするとデータ整備だけで年単位の時間がかかり、効果が出る前に取り組みが止まります。

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